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クラウスニッツの読みは当たり、無事円筒から脱出することができた。しかし、 円筒に取り込まれたときに三〇隻程いた味方は七隻まで減っており、旗艦ローゲ も被弾していた。

「いやー、あぶねえあぶねえ。ま、なんとかなったからいいか」
クラウスニッツは冷汗を拭った。

このとき、ブラウエベルク艦隊は一〇〇隻を割っており、大きく陣型を崩してい たため、一旦戦線を離脱して態勢を立て直すつもりのようだ。

そして、クラウスニッツ軍の目の前にはローエワルト艦隊がいた。ブラウエベル クと戦闘している間に追いついてきたのである。

ローエワルトの心積もりでは、この時点でクラウスニッツ軍の指揮系統が破壊さ れているか、悪くともブラウエベルクが背面展開しているはずであった。しかし、 作戦会議で後者の場合の説明を怠っていたため、その意図はブラウエベルクには 通じていなかった。「そのぐらい分かってくれよ」とつぶやいても後の祭である。

その頃、クラウスニッツは外殻部隊を率いたティーデマンと通信していた。
「ティーデマン」
「おうよ」
「相変わらずスゲーつらだな」
「ほっとけ」
「これからローエワルト艦隊攻略にかかる。しばらくお前さんが指揮を取れ」
「どうした? 怪我でもしたか?」
「今は押しの一手だ。ローエワルトに小細工する暇を与えたくない。あれこれ考 える僕よりもお前さんの方がよさそうだ」
「よっしゃあ、任せとけえ!!」

「やれやれ、ちょっとは一休みできそうだな」
「だからといって、寝ないでくださいよ?」
「なんでばれたんだろう?」
「本当に寝る気だったんですか?」
「冗談に決まってるだろう」
「普段の言動見てると冗談に聞こえないんですよ」
「いやー、照れるなあ」
「誰も誉めてませんてば」

そうこうしてるうちにローエワルト艦隊ちの砲火の応酬が始まった。ティーデマ ンは当初の予定通り円形陣を作り、ローエワルト艦隊を包囲した。球形陣をとっ たローエワルトはシールドが重なる程の密集隊型でこれを迎え撃った。

ティーデマンの猛攻を堅い防御で阻んでいるローエワルトだが、攻撃に切れ目が ないためにそれ以上動きようが無かった。戦いはすぐに膠着状態に陥った。

「さすがにしぶといな」
「何か打つ手はありますか?」
「うーん、そうだな。アレやってみるか」
「えーっ? アレやるんですか?」
「他にあるか?」
「でも……」
「でも何だ?」
「アレって何ですか?」
「おいおい」

こうして戦闘は第三の局面を迎えることになる。


つづく