11)

「一〇〇隻単位に分かれてランダムなタイミングで突っ込む」
クラウスニッツはおごそかに宣言した。
「それからどうするんです?」
「それだけだ」
「それだけって……」
「あまり時間がないからな」
「ブラウエベルク艦隊が引き返してくるからですか?」
「予備兵力二五〇の中の実動五〇隻もしびれを切らすだろうしな」
「でも、突っ込むだけで状況が変わりますか?」
「変わるさ」

ローエワルトとしては膠着状態を何とかしないとじり貧である。だから何か動く きっかけが欲しい。そこへ一〇〇隻単位の艦艇が突っ込んでくると、これを好機 と見なして必ず動くはずだ。

もちろん、ローエワルトはこれが罠であることを見抜くだろう。しかし、ブラウ エベルクが戻ってくるとクラウスニッツが一旦離れて態勢を立て直すのは目に見 えているし、そうなるとつけ入る隙を見出すのが難しくなるので反撃は無理であ る。だから、反撃するにはクラウスニッツの誘いに乗るしかないのだ。

それに対してこちらは、アトランダムな突撃を繰り返すことによって相手の読み を外し続ける。突撃のタイミングが敵に読まれる心配はない。なにしろ味方も分 からないのだから。

「こっちとしてはローエワルト軍に『守り抜いた』とは思って欲しくないんだ。 『負けた』と思ってもらわないと戦った意味がない」

ティーデマンから指揮権を取り戻し、攻撃を継続しつつ艦艇の再編を終えたクラ ウスニッツは早速作戦を開始した。

第一陣が突撃したときに、ローエワルトはこれを包囲しようと部隊を突出させつ つ、正反対の方向にも火力を集めた。ところが第二陣は第一陣から六〇度離れた 方向、つまり、第一陣と何の関係のない方向から突撃した。意図を計りかねたロー エワルトが一瞬動きを止めた瞬間、第三陣、第四陣とあらゆる方向から突撃が始 まった。さらに第五陣、第六陣……。

最終的に、ティーデマンが率いる部隊が中央突破に成功すると、ローエワルト艦 隊の秩序は崩れさり、散発的な抵抗があるのみとなった。

そこへようやくブラウエベルク艦隊が戻ってきた。予備兵力の中の五〇隻も合流 している。彼が方向転換が苦手なことや予想外に被害が大きかったことを考慮し ても時間がかかり過ぎていた。これはブラウエベルクが連携プレイを忘れ去り、 態勢を整えることに専念したためである。

ブラウエベルクが突撃してくる前に、クラウスニッツはローエワルト艦隊の包囲 を解いた。ようやく秩序を取り戻したローエワルト艦隊はブラウエベルク艦隊と 合流すると整然と退却を始めた。

「追撃しますか?」
「止めとこう。これ以上やっても意味がないよ。見ろよ、見事なもんだ。あれだ け叩かれたのに、まだ、整然とした艦隊行動がとれるんだから」
「そうですね」
「まあ、それも本拠地に帰るまでの間だろうがな」
「反撃の余力はないですか?」
「あの半分残ったとしたら、もう一波乱あるかもしれない」
そこで言葉を切ったクラウスニッツは一瞬考えたあと続けた。
「多分、動乱終結には間に合わないな」
その予想が正しいことは後に分かった。


つづく