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俺はあの男を許せない。いつか復讐をしてやる。今はまだだめだ。機が熟してい ない。だけど、みてろよ。いつか必ず復讐をしてやる。あの男、第三六代銀河帝 国皇帝フリードリッヒ四世---俺のシュザンナを奪った男。

シュザンナとは幼なじみだった。俺はベーネミュンデ子爵家の召使いである下級 貴族の倅。彼女の方が身分が上だったが、彼女はそんなことは関係なく、俺と仲 良く遊んでくれた。いずれ、結婚することになるかもしれないと、ぼんやりと夢 見ていた。身分の違いは、なんとかなるものだと思っていた。

ところが、とんでもないことに、あの男がシュザンナを見初めて連れていってし まった。なんとかついて行きたいと思ったが、召使いの中でも末端にいる男のそ のまた息子となると、後宮に入れる訳がなかった。

俺はただちにシュザンナの救出を考えた。しかし、救出自体の難しさもさること ながら、救出後に彼女の安全を確保する方法が思いつかなかった。フェザーン経 由で自由惑星同盟に亡命するどころか、オーディンを離れる方策さえ思いつかな かった。すぐに救出することをあきらめた俺は、子爵家からシュザンナについて 行く召使いに頼んで、時々シュザンナの様子を知らせてもらうことにした。彼女 に迷惑がかかるかも知れないから、彼女には知らせずにこっそり教えてくれと。

後宮からの情報によると、意外にもシュザンナは後宮の暮しにすぐに順応してし まったようだ。これは、救出作戦を立てたところで、シュザンナの協力が得られ ないことを意味する。こうなってしまうと、シュザンナを取り返すためには荒っ ぽい方法しか残らなくなる。皇帝を暗殺するか、それとも、いっそのことゴール デンバウム王朝を打倒するか……。

どちらにしても、すぐには無理だ。俺はあちこちに網を張って、待つことにした。 次の展開の小さなきっかけが起ったのは、数年後のことだった。


つづく