シュザンナがあの男の後宮に入ってから7年目、下級貴族の娘があの男の後宮に 迎え入れられたという噂を聞いた。あの男はそれまでも何人もの女を漁っていた が、今度はいつもに増してご執心だとか。グリューネワルト伯爵夫人の称号を与 えられたその娘は、なるほど昔のシュザンナに匹敵する程、いやそれ以上に可憐 だった。

これはチャンスかもしれない。その時はそう思った。あの男のシュザンナへの寵 愛が無くなりつつある。今、あの男から引き離せば、少ない抵抗で彼女を取り戻 せるかもしれないと。しかし、……。

シュザンナの様子がおかしい。グリューネワルト伯爵夫人への嫉妬に狂い、あの 男の寵愛を取り戻そうと必死に画策しているようだ。しかも、伯爵夫人の暗殺や、 その弟、ラインハルト・フォン・ミューゼルの暗殺も試みているという。

俺は衝撃を受けた。遅すぎたのか? あそこにいるのは俺の知ってるシュザンナで はないのか? そう、あのやさしかったシュザンナはもう死んだのだ。あれはもう 俺のシュザンナではない。ベーネミュンデ侯爵夫人---シュザンナの皮をかぶっ た悪魔だ。

それにしても、俺はこれから何をすればいいのだろう。この数年、シュザンナを 取り戻すことだけ考えてきた。しかし、もう遅い。あそこにあるシュザンナの肉 体を奪ったところで、俺のシュザンナは帰ってこない。ならば、シュザンナの仇 を討ってやる。フリードリッヒ四世に。そして、ゴールデンバウム王朝に。