1)

俺はあの男を許せない。いつか復讐をしてやる。今はまだだめだ。機が熟してい ない。だけど、みてろよ。いつか必ず復讐をしてやる。あの男、第三六代銀河帝 国皇帝フリードリッヒ四世---俺のシュザンナを奪った男。

シュザンナとは幼なじみだった。俺はベーネミュンデ子爵家の召使いである下級 貴族の倅。彼女の方が身分が上だったが、彼女はそんなことは関係なく、俺と仲 良く遊んでくれた。いずれ、結婚することになるかもしれないと、ぼんやりと夢 見ていた。身分の違いは、なんとかなるものだと思っていた。

シュザンナと俺の身分の違いが想像以上に大きいと気がついた俺は、士官学校に 進学した。軍人になれば才能次第でかなり出世でき、シュザンナとの結婚も夢で は無くなる、そう思ったからだ。しかし、子爵家での狩で筋がいいと誉められた 射撃もせいぜい中の上から上の下辺り、他の科目はほとんど落第寸前という有様 だった。

そんな中、何故か「情報分析」だけはトップクラスだった。特に噂の分析に関し ては教官が舌を巻く出来だった。考えてみれば、大貴族の社会は噂で成り立って いるといっても過言ではなく、子爵家の末端にいる俺にとっては、噂の真贋を見 極めることは死活問題だ。俺は自然に噂の取り扱い方を覚えていたのだ。

世の中、上には上がいるもので、その「情報分析」でも俺は常に二番にしかなれ なかった。常に一番の奴に俺は興味を持ち、話をしてみる気になった。会ってみ るとそいつは、青白い顔をした妙な目つきをした男だった。その男パウルは、公 表された情報から背後の事実を分析するのに長けていた。俺とパウルは意気投合 し、よく議論するようになった。もっとも、はたかた見れば、俺が一方的にまく したてるのをパウルがうるさそうにぼそぼそ反論してるようにしか見えないだろ うから、仲がいいようには見えなかったかもしれないが。


つづく