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そんなある日のことだ。とんでもない話が持ち上がった。皇帝がシュザンナを後 宮に迎え入れるというのだ。俺の知らないうちにその話は進行し(あたりまえだ。 こんな下端に一々報告する義務がどこにある?)、士官学校の寮に通知が来たのは 全てが決定された後だった。そして、シュザンナが後宮に入ってしまうまでの間 に、彼女の本音を聞く機会はなかった。

俺はパウルに相談を持ち掛けた。俺の話が終わるのを無表情に待っていたパウル の言葉は意表を突くものだった。

「君は君の道を行くがいい。私は私の道を行く。当分、会わぬのがよいだろう」

それだけ言って差出された右手には、深くくいこんだ爪の跡があった。俺はその 手を取り、そして無言のまま分かれた。奴がシュザンナを個人的に知っていたと は、この時まで気付かなかった。

パウルのすることには、いつももっともな理由がある。今回は多分こういうこと だ。皇帝に復讐するにしてもシュザンナを救出するにしても、巨大な相手を敵に 回すことになる。今の我々が手を組んだところで、気付かれれば一撃で吹き飛ば される。ならば、別々に行動して、力を持った時点で(生き延びていれば)共同戦 線を張ることにした方が、まだ成功率が高い。しかも、一方からの攻撃よりも二 方向からの攻撃の方が効率がよい。

それに、俺とパウルが手を組めば、どちらが主導権を握ったとしても他方は押し も押されもせぬナンバー・ツーになるだろう。「ナンバー2有害論」を持論とす るパウルが容認出来る事態ではない。

そもそも、おそらく彼にはゴールデンバウム王朝の打倒を目指す彼なりの理由が ある。ここは下手に手を組むよりもそれぞれの動機で、それぞれの手法で行動し た方が得策だろう。


つづく