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目標は二つ。シュザンナの救出と皇帝への復讐。

後者は直接的には困難であるし、前者が成功すれば後者の代用にもなる。では、 前者のシュザンナ救出に焦点を絞ってみよう。

基本戦略はすぐに決まる。シュザンナをなんとか後宮から連れ出し、オーディン を脱出し、フェザーン経由で自由惑星同盟に亡命する。その後、同盟領の辺境で 姿をくらまし、フェザーン経由で、今度はこっそりと帝国に戻り、辺境に潜む。 この時点で見付からなければ、少なくとも10年は見付からずに済むだろう。

ところが、個々の戦略目標を考えると頭が痛い。どうやって後宮から連れ出す? 後宮の様子が分からなければ判断不能。後宮から宇宙港へ行く方法は? 情報不足。 フェザーン商人をまるめこんだとして、官憲に見付からずにその船に乗る方法は? 情報不足。どこで実働部隊を手に入れる? 武器の調達は? そのための資金は? こ の様子ではすぐに実行するのは無謀だ。ここはじっくり腰を据えてかかるべきだ ろう。

まずは情報収集の手段を整えねばなるまい。全てはそれからだ。正しい判断は、 正しい情報と正しい分析の上に、初めて成立するのだから。ベーネミュンデ子爵 家からシュザンナに付いて行った召使い連中に後宮の情報を流してもらうことに しよう。ヨハン爺さん辺りか? これは組織化する必要はあるまい。俺自身が乗り 込むことも考えたが、召使いの中でも末端にいる男のそのまた息子となると、そ んなことはまず無理だし、入り込めたら入り込めたで視野が狭くなる。

士官学校の同期にマイセンという男がいるが、こいつは共和主義にかぶれている。 本人はうまくカモフラージュしてるつもりだろうが。こいつをうまく炊きつけれ ば適当な組織が作れるだろう。他にも使いやすい奴はいるが、狭い人間関係の中 から何人も使うのは危険なのでマイセンだけにしておく。

奴と俺の継がりを推測しにくくするためと、軍に入って行動を拘束されるのを防 ぐために、何か理由をつけて士官学校を中退することにしよう。どうせ学ぶべき ことは全て学んだ。パウルとの10分の議論は士官学校での一年の講義よりも価値 があったのだから。

地下に潜伏して活動するには、暗号名が必要だろう。複数の暗号名を使うにして も、代表的なのは一つ選んでおくか。「リッター」。シュザンナが俺につけた秘 密の渾名。これでいくか。

そうこうしているうちに後宮のヨハン爺さんから連絡が入った。意外にもシュザ ンナは後宮の暮しにすぐに順応してしまったようだ。これは、救出作戦を立てた ところで、シュザンナの協力が得られないことを意味する。こうなってしまうと、 シュザンナを取り返すためには荒っぽい方法しか残らなくなる。皇帝への復讐を 優先させた方があるいは近道かもしれない。

どちらにしても、すぐには無理だ。俺はあちこちに網を張って、待つことにした。


つづく