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憲兵隊特殊処理班第三狙撃中隊第一独立小隊。俺が配属された部所の名だ。この 小隊は憲兵隊に属しながらも、統帥本部の命令でのみ動くという、要は暗殺部隊 なのである。他の部隊との連携はおろか、小隊単位で動くことさえめったになく、 単独行動を基本とした狙撃部隊。任務内容を小隊内の同僚に喋ることさえ禁じら れている。正に暗殺のためだけに作られたような部隊だ。

最初の三ヶ月は訓練だった。単に的に弾を当てるだけなら俺は無用の訓練だ。し かし、探知器の使い方、やばいと思ったら無理せず撤退して次の機会を狙うこと、 初弾を外した時も速やかに撤退すること、その場で応戦しないこと、狙撃地点の 決め方、接近の仕方、敵の狙撃地点の割出し方等々、学ぶことはいくらでもあっ た。

そして最初の任務。標的が何故殺されるかについての説明など無い。そんなもの は俺にはどうでもよかった。小隊長から与えられた情報を元に待ちぶせをする。 分解されてケースに収められていた銃を二十秒で組み立て、探知器をセットし、 あとはひたすら待つ。そして標的に照準を合わせ、引き金を引く。人目につかな い範囲で直ちに場所を移動し、銃を十秒で分解しケースに収める。あとは目立た ないように立ち去るだけだ。

それは、俺にとって簡単なことだったし、性に合っていた。次の任務が待ち遠し かった。

その後、俺は次々に任務をこなしていった。その間、初弾を外したことは一度も 無かったが、やばいと感じたときに撤退するのはためらわなかった。あとで分析 すると、そういう時は本当にやばい場合が多かった。もちろん、一度撤退したか らといって、標的をいつまでもそのままにはしておかない。次の機会かその次の 機会には、必ず任務を全うした。

一年足らずで准尉から少尉に昇進した。順調にいけば、あと一年もすれば中尉に 昇進でき、次期小隊長になるだろうと噂されていた。

そんな矢先の命令違反。狙撃中止命令を無視して狙撃したのだ。俺は一度狙撃命 令を受けると、全神経を狙撃に集中してしまい、他のことは全く聞こえなくなる。 上官の命令さえも。狙撃に成功したあと小隊長のきびしい叱責に会うまでは、狙 撃中止命令など忘れていたのだ。そして一週間の謹慎と勧告処分。

にもかかわらず、俺はもう一度同じ失敗をしてしまう。謹慎一ヶ月、減俸六ヶ月。 そしてもう一度……。

三度目の処分は最悪だった。命令違反によって暗殺部隊の存在自体に危惧を抱い た軍上層部は第一独立小隊を解体、隊員達はばらばらの部所に配属された。そし て、俺は三度にわたる命令違反のため軍人としての適性が無いと判断され、除隊 処分。俺の憲兵隊での生活はここで終った。


つづく