7)

ベーネミュンデ侯爵夫人の傭兵隊に入ってしばらくすると、何だか妙な奴が傭兵 隊に入ってきた。フォン・ラーケンと名乗るその男は、俺と同じく狙撃手だとい う触れ込みなのだが、どうも妙だ。狙撃手独特のにおいも、傭兵独特のにおいも しない。むしろ、鼠に似たにおいがする。こいつ、スパイか? そう思ったが、何 の証拠もないので誰にも言わなかった。

やがて、グリューネワルト伯爵夫人襲撃の命令が下った。装備の点検中に隙を見 てフォン・ラーケンの対戦車ライフルの弾を確かめる。徹甲弾だ。貫通力は高い が、当たった部分以外への被害は少ない。俺はこっそり、ウラン238弾に取り換 えておいた。これで撃ったらさぞかしびっくりするだろう。そもそも、弾のすり 替えが可能なこと自体、狙撃に関してはアマチュアの証拠だ。

そして襲撃。狙撃手の銃声を合図に全部隊が突入する手筈になっている。俺が狙 撃すればそれで終る筈なのだが、フォン・ラーケンの加入で不確定になってしまっ た。

地上車が近付いてくる。俺は狙点を定めて引き金に指をかける。そして……。

俺が引き金を引く直前に地上車がふっとんだ。フォン・ラーケンの奴だ。しかも 外しやがった。照準を合わせ直して狙撃しようとするが、突入を始めた襲撃隊が 邪魔で撃てない。

せめてフォン・ラーケンをとっつかまえて締めあげてやろうと思った瞬間、ぞくっ とした。やばいっ。何か分からんがやばいっ。探知器を確認すると、正体不明の 武装グループが近くにいる。この襲撃は失敗に終る、そう感じた俺は、その場か ら撤退した。


つづく