5)

私はオイゲンの紹介でクラインマン氏と会った。ある共和主義運動グループのリー ダーである。もちろん、表向きはオイゲンの知人ではないことになっている。氏 は下級貴族の間に情報網を張りめぐらせてはいるが、軍部の情報が乏しいのでろ くな活動ができないと嘆いていた。つまり、私に軍部での情報網を作れというこ とだ。その見返りはクラインマン機関の得た情報である。私は地下活動について のレクチャーを受け、連絡員兼御目付役としてヘレナ・クラインマンという少女 を紹介された。

クラインマン氏の一人娘であるヘレナは、見かけはおとなしい可憐な少女だった が、正確な記憶力と柔軟な知性を持ち、共和主義の理念も地下活動の現実もよく 理解している一人前の闘士だった。個人戦闘力も高く、集団戦闘の指揮をとる訓 練まで受けてるという。いやはやたいした娘だ。私なんぞ足元にも及ばない。

ヘレナだけにはワイツェッカーの存在とその推測される目論見を話しておいた。 私の組織の彼に知られる部分は私と彼女程度に留めて置きたかったからだ。いず れ、彼と連絡を取る機会が来たときに私自身が行けなければ彼女に行ってもらう ことにする。そのためには彼女が事情をよく理解し、ぼろを出さないようにする 必要があった。

こうして、後に「オーディン共和戦線」と呼ばれることになる組織が、ささやか ながら歩み始めた。


つづく