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「オーディン共和戦線」を始めて十年余り経った頃、憲兵隊がクラインマン氏の 狙撃を計画しているという情報がS2機関からもたらされた。ただちに狙撃阻止の ための工作を始め、狙撃中止命令を出させることには成功したのだが、狙撃担当 者のシェーンベルク少尉の暴走によって狙撃は実行されてしまった。

我々はシェーンベルクの更迭と憲兵隊の暗殺部隊の解体を目指した工作を始めた。 中止命令を受けつけない彼の性格を利用して、上層部に暗殺部隊の危険性を認識 させるというものだ。工作は見事に成功し、シェーンベルクは除隊、暗殺部隊は 解体された。

さらに、父親を暗殺されたヘレナの発案で、暗殺部隊が解体されたのはシェーン ベルクの所為であることを部隊全体に広めた。その後、彼等は壮絶な同士撃ちを 演ずることになる。

同じ頃、「オーディン共和戦線」の方から面白い情報が入ってきた。グリューネ ワルト伯爵夫人の弟ミューゼルが軍で活躍してるというのだ。グリューネワルト 伯爵夫人はベーンミュンデ侯爵夫人が目の敵にしている人物なので、「リッター」 向けに探らせてみた結果の情報である。

ミューゼルは若年ながらここ数世紀で最高の軍事的才能を持っているようだ。皇 帝が目にかけていることもあって、瞬く間に昇進していっている。彼が適当なタ イミングでクーデターを起こしたら必ず成功するだろう。そんな印象を持たせる 人物である。しかも彼はクーデターを起こす動機を持っている。

問題は彼が開明的な気質を持ってるかどうかだ。下級貴族である彼にそれを求め るのは不自然ではないが、実際のところどうなのだろうか? 私は不便を承知の上 でS2機関を使わず「オーディン共和戦線」のみを使って彼を調べあげた。その結 果、彼の兵士や下級将校への言葉の端々から開明的な気質が伺えることが分かっ た。

これは「リッター」に知らせるべきだろう。そのために敢えてS2機関を使わなかっ たのだから。ミューゼルに肩入れするのは、私とワイツェッカーの両方にとって メリットがあるはずだ。


つづく