この縮約という作業は「読む側」に立っての作業です. ところが, この作業は 裏返すと「書く側」の心がけを示唆する作業になる.大野晋「日本語練習帳」
大野晋は, 「日本語練習帳」[1]で, 文章全体を見渡す方法として, 文章の縮 約を勧めている. 例題として, 1400字程度の社説を400字に縮約している.
同書では, 400字に縮約することの具体的内容を,
としている. 実際には, ここまできびしくしなくてもよいが, 1番目の要素だ けは忘れてはいけない.
文章の意味を正確に読み取らなければ, 縮約はできない. 文意を読み取るため には, 赤線を引くよりは, よほど効果がある.
また, 余分な部分や, 要点を支えていない部分が良く分かる. そういったこと を通じて, 無駄のない, 筋の通った文が, どういうものか分かる.
大野は, 社説を縮約する作業を30回することを勧めている.
その次には, 縮約された文章を, さらに半分に縮めるとよい. つまり, 400字 に縮約された文章を200字で表現するのである.
この段階では, 縮約で済ませられないので, 要約することになる. つまり, 文 章の主旨を変えないまま, 短く作り変えてしまうのである.
「要約する」という作業を, 「文章の一部を抜き出すこと」だと思っている人 が時々いる. それは「抜粋」である. 事実上, 要約とは, 文章の内容を短い表 現で解説することである. そのためには, 文章の順番や構造を作り変えること もあるし, 書かれていない説明を補足することもある.
縮約された文章を要約するという作業は, 縮約で得られた教訓をさらに強める. 文章の無駄な部分, 足りない部分, 筋から外れた部分は何か. そういったこと がよく分かる.
文章を書く場合は, 一度, 自分の文章を縮約もしくは要約するとよい. 楽に縮 約できるようであれば, その文章は無駄だらけである.