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それ以来、僕はその猫をよく見かけるようになった。僕がどこにいても、どこ からともなく現われるんだ。それ以上に不思議なのは、その猫は僕以外の誰に も見えないらしいということだ。しかも、僕以外のどんなものでも、気軽に通 り抜けてしまう。僕が持つと、しっかり感触があるし、僕の手を通り抜けて行 く気配はないのに。

ひとつ確かなことがある。他の人に見えない猫を僕があやしている姿は、他人 の目には奇異に写るだろうということだ。それに気がつかなかった頃、なんだ か注目をあびてるような気がしたのはそういうことだったのだろう。僕は次第 に、他人に気付かれないように猫の相手をするようになった。

「お客様、ペットのお持ち込みは御遠慮願います」

そんなある日の喫茶店で、そうウェイトレスに声をかけられた時はびっくりし た。そのとき僕はいつものように猫をひざの上であやしてた。猫はウェイトレ スを振り返ると、にやっと笑い(僕にはそう見えた)、しっぽの先から消えていっ た。

最後に残った猫の笑顔が消えたとき、ウェイトレスは手に持ってたお盆を落とし た。水の入ったコップが音を立てて割れる。そして、一瞬の間をおいて、

「きゃああああああぁぁぁぁぁ」

それは耳が痛い程の悲鳴だった。


つづく