義務兵役の任期が終了する頃、ヨブは軍での裏工作の仕上に取りかかった。
自分自身を密告させたのである。もちろん、ヨブが無実であることを証明できる 状況で。
ヨブの偽情報を鵜呑みにして密告するような者が自分自身を隠蔽する程の知恵を 働かせる訳もなく、密告者の正体はすぐに知れ渡った。気の弱い男だった。
任期終了時に行なわれた送別会で、密告者は今までヨブに密告された者やその友 人に詰め寄られた。今までの密告も全てお前だろうと。
密告者が以前の密告について否定する前にヨブは割って入って取り成した。罪を 認めたのだからこの辺で許してやったらどうかと。人々はヨブの寛大さを誉め称 えながら矛先を収めて解散した。誰が密告の犯人かを勘違いしたまま。
「こいつらはバカだ」
ヨブはそう思った。
密告者は誤解を解く機会をヨブに奪われたことに気がつかないままにヨブに感謝 し、改めて謝罪し、忠誠を誓った。
「こいつもバカだ」
ヨブはそう思った。