「猫(カッツェ)」

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久し振りの休日はハイネセンで迎えた。気の抜けない上司と一触即発の状況の中、 肩の力を抜ける貴重な春の一日だった。

一日中のんびりするつもりで昼まで寝ていたが、忙しい日々の合間にぽっかりと あいた空白の一日だけに暇をもて余し始めた。ぼんやりした頭であれこれ考えた あげく、下町でもうろついてみようかと思い立ったときには、既に日が傾いてい た。

アントン・フェルナーは下町が好きだった。数年前、オーディンに住んでいた頃 も、暇を見つけては下町を散策していた。ラインハルト・フォン・ローエングラ ムの暗殺に失敗して一時身を潜めたときにかくまってくれたのは、そういうとき に知り合った女性であった。

そんなことを思い出しながら歩いていると、バーの看板が目に入った。

「猫(カッツェ)」

それは、当時フェルナーをかくまってくれた女性が名乗った名前だった。

なつかしいものに出会った気がして、そのバーに入ってみると、そこにいたのは 「猫」本人だった。


つづく