リヴァモア日記:第0週

序章

人もすなる日記といふものを我もしてみるなり。

などという書きだしかたをしてみたが、古文はもともと苦手なので、 パロディにもなってないかもしれない。 無理をせず、いつもの文体で書くことにする。

私は1996年1月から三ヶ月の間、 アメリカ合衆国カリフォルニア州リヴァモア市にある ローレンス・リヴァモア国立研究所(LLNL)に滞在することになった。 R. M. More先生に招待されたのである。 ポスドクの待遇で、研究所から給料が払われることになっている。

リヴァモアは北カリフォルニアにある。 サンフランシスコから南東に100kmほど離れた田舎町である。 カリフォルニア・ワインの産地の一つとしても知られている。

LLNLは、ノーベル賞物理学者のローレンスが設立したもので、 もともとはカリフォルニア大学バークレー校に属していたが、 その後、独立して、エネルギー省(DOE)の機関となった。 バークレーにあるローレンス・バークレー国立研究所(LBL)も 同様の経緯を経た研究所で、LLNLと姉妹関係にある。 ちなみにサンフランシスコ〜バークレー間が約50km、 バークレー〜リヴァモア間が約50kmである。

LLNLは、LBLとは違って、軍と密接な関係にある。 ひと昔まえには水爆を造っていたという話も聞いたことがある。 そんな所に私が行って、生きて帰って来れるのだろうか? ただでさえ私は、海外に行くのが初めて、一人暮らしが初めて、 英語が苦手、運転免許を持っていない、まともなクレジット・カードを 持っていない、方向音痴である、などなどの不安材料をかかえている。 一沫どころではない不安が心をよぎるが、基本的に楽天家である私は 「なるようになるさ」と割りきることにした。

当初の予定では1月10日に出発する予定だったが、クリントンと議会の対立の 余波で出発が遅れた。 暫定予算の期限が切れても次の予算が通らず、米国領事館が業務を 停止していたため、ビザの発行が遅れたのである。

出発は1月29日となった。