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ワイツェッカーはシェーンベルクの動向に注目していたので、シェーンベルクが ベーネミュンデ侯爵夫人の傭兵隊に入ったことは当然「リッター」に報告した。 「リッター」が消えたのはその直後である。何か関係があるのだろうか? その頃、 ベーネミュンデ侯爵夫人とミューゼル一派の間に大規模な抗争が起こる可能性が あると、旧クラインマン機関から報告があった。あるいはそちらの関係か? どち らにしても情報が足りないので、事態を静観することにした。

やがて、ベーネミュンデ伯爵夫人によるミューゼル一派襲撃事件の報が入る。大 まかな推移は耳に入ってくるのだが具体的な情報はなかなかつかめなかったので、 シェーンベルクの行方は確認できなかった。

ワイツェッカーの置き土産に気がついたのはその頃である。

「旧クラインマン機関の下部組織である反戦地下組織イリュミナートが半年前に 憲兵隊に襲撃されたが、オーディン共和戦線は襲撃を事前に察知していたにもか かわらず警告も止める努力もしなかった」

彼はそんな噂を流して旧クラインマン機関と「オーディン共和戦線」の共倒れを 図ったのである。何と辛辣な、そして何と見事な手際だろう。私がワイツェッカー の手口を熟知していなければ、手遅れになるまで気がつかなかったところだ。

早速関係の修復にとりかかったのだが、一部の強行派はどうしても説得できなかっ た。ようやく連絡の取れたシェーンベルクに強行派のリーダーの狙撃を依頼し、 この件は落着した。

その後、シェーンベルクはブラウンシュヴァイク公の私兵になったらしい。そし て、ワイツェッカーの行方はその後も分からなかった。


つづく