13)

皇帝崩御の報を聞いた頃、「オーディン共和戦線」の解体はほぼ完了し、私とヘ レナの二人を除いた全員がS2機関に組込まれていた。ミューゼルがローエングラ ムと名を変えた後も支援を続けていた我々は、この転換期にすべきことを決めて いた。

ローエングラムと門閥貴族の武力対決がさほど遠くない未来に起こることは疑い ようのないところである。その前にまず、S2機関の情報網を利用してローエング ラムが平民や下級貴族の味方であることを兵士の間に浸透させていった。即効性 はないが、状況がローエングラム側に大きく傾いたときの決め手になるだろう。

もうひとつ打っておくべき手として、この混乱期を利用して同盟との連絡を図っ た。来たるべきローエングラム政権は我々にとって次善の策であり、共和主義政 権が成立するまでは同盟の圧力が必要である。幸い、捕虜交換に乗じて数人の工 作員をイゼルローンに潜入させることに成功した。期を見て投降し、継続的な情 報提供を申し出る手筈になっているが、結果はまだ報告されていない。

この動乱が終わって状況が安定した後にすることを、私は秘かに決意していた。 今の段階では誰にも言ってないことであるが。

やがて、いわゆるリップシュタット戦役が始まる。この頃、シェーンベルクの消 息を見失うが、彼を探している余裕は既になかった。


つづく