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「伝達型文章の作文技術」:02-01

02: 書き方

02-01: 文字


通信では使ってはいけない文字 人はそれを"機種依存文字"と呼ぶ...
「機種依存文字劇場」http://apex.wind.co.jp/tetsuro/izonmoji/

文章を実際に作るときには, 全体の構成を考えるところから始め, 段階的に細 部へと考察を進めるのがよい. しかし, 技術の習得という意味では, 細部から 始める方がよいだろう.

文章表現の最小単位は, 文字である. よって, 考察を文字の選択から始める. 電子的文章を考察するが, 手書の文書に通ずる部分もあるだろう.

・文字コード

電子化された日本語文書の最も標準的な文字コードは, ISO-2022-JPである. これは, JISコードとも呼ばれる. 日本におけるインターネット黎明期に開発さ れた, JUNETコードが原形である. 他にも, MS漢字コード(いわゆるShift JIS), EUC, Unicodeがよく使われる.

ISO-2022-JPに含まれる文字は, 他のコードでも大抵は使えるが, 他のコード で使われる文字の一部は, ISO-2022-JPで使えない. よって, ISO-2022-JPで使 える文字に限定すると, 可読範囲が最も広い文章が書ける. これは, 電子メー ルで使ってよいとされる文字の範囲である. この範囲から外れた文章は, 不必 要な限定を読者に加える.

よって, いわゆる半角カナや, いわゆる機種依存文字は, 避けるべきである. どのような文字が半角カナ/機種依存文字であるのかは, 自分で調べるのがよ いだろう.

・正規化

電子化された文章特有の事情が, もう一つある. 正規化(normalization)の問 題である. 日本語の正規化には二つの流儀がある. 一つは, ASCII文字(いわゆ る半角英数字)で表現可能な文字をASCII文字で書く流儀である. もう一つは, 全て日本語文字(いわゆる全角文字)で書く流儀である. 私は, 前者を推薦する. いずれの場合でも, 一つの文書内では統一すべきである.

正規化の概念は, 異字体の統一や, 振仮名の振り方, 漢字/仮名の選択にも適 用される. きちんと正規化された文書は, 読みやすいだけではなく, 検索も容 易である.

・引用符

引用符を日本語文字で書くとき, 「’」で始めて「’」で終わる人がいるが, これは, バランスが悪い. 例えば, 「‘」で始めて「’」で終わるのがよい. ASCII文字で書く場合も, 「`」で始めて「'」で終わるのがよいだろう. ただ し, 国によっては別の流儀もある.

二重引用符「“”」も同様の事情がある. しかし, ASCII文字の場合は使い分 けようがないので, 気にしなくてよい. もちろん, TeXなどのように, 使い分 けられるシステムで書く場合は, 使い分けるべきである.

・句読点

句読点は, 「、。」か, 「, . 」が標準的である. たまに, 「,。」が推奨さ れている場合がある. いずれにしても, 一つの文章の中では統一すべきである.

英語を含む文章や, 数式を含む文章の場合は, 「, . 」が望ましい. 前者は, 英語に「、。」をつけるのはバランスが悪いので, 統一するなら「, . 」の方 がよいという事情である. 後者は, 英文での習慣を日本文に流用するための都 合である. 英文では, カンマやピリオドを地の文と同様に数式にもつけるので ある.

句読点は, 基本的には, 意味の切れ目を明確にするように打つのがよい. 実は, 日本語の句読点(特に読点)に, 正式な使い方というものは存在しない. よって, 読点を打つ場所は, 書く人の感覚に任される. だからといって, どこに打って もよいということにはならない. どちらが意味を明確に, 容易に伝えるかを充 分に考えて, そこで打つかどうかを決めるべきである.

目安の一つとして, 助詞「は」の後に読点を打つべき場合がある, ということ が挙げられる. 一説に「スーパー助詞」[1]と呼ばれる「は」は, そこで一旦 区切りをつけ, その後の句, 文, 段落に作用するものだからである.

音読時の息の切れ目も目安の一つである. また, 平仮名の単語が続いたり, 漢 字の単語が続いたりした場合, 切れ目を明確にするために打つこともある.

・フォント

文字単位で考えるべきことには, フォントの選択の問題もある. Plain textで 書く場合は選択の余地がないが, ワープロやTeXのような, フォントの使い分 けが可能なシステムでは注意を要する.

数式を書く場合は, 数字を立体(roman)で, 英字を斜体(italic)で書くのが原 則である. TeXでは, 数式モードにすると勝手にそうなる. 添字で, 人名や単 語の省略に由来するものは, 立体にする. 単位も立体である. 三角関数や極限 のように, 単語の省略に由来する関数名や演算子も立体である. 他にも, 自然 対数の底である「e」や, 微分積分に使う「d」も, 立体で書く. ベクトル量は 斜体の太字(italic bold)で, テンソルはサンセリフで書く.

日本文で強調する場合は, 日本語文字をゴシック体で, 英数字を太字(bold)で 書く. 英文の場合は斜体(italic)が強調である. TeXの場合は, emphasizeの略 に由来する「\em」が, 強調用のフォント指定として用意されている. 色の変 更で強調する場合もあるが, 文章の使われ方次第で効果が異る. 白黒でコピー されてしまえば, 強調に見えなくなるだろう. いずれにしても, 強調は控え目 に使うべきである. やたらと強調すると, 効果が薄れる.

ただし, これらは全て, 標準的な選択の一種である. 別の流儀も存在する. 論 文として投稿する場合は, 投稿先の雑誌の規程に従うべきである.


  1. 金谷武洋: 「日本語に主語はいらない―百年の誤謬を正す」, 講談社選書メチエ (2002年).

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